東京高等裁判所 平成10年(行ケ)126号 判決 1999年3月25日
福山市箕沖町105番地の5
原告
福山鍛鋼造機株式会社
代表者代表取締役
横手新治
訴訟代理人弁理士
砂川昭男
同
忰熊弘稔
福山市鞆町後地26番地の170
被告
株式会社園田滑車工業所
代表者代表取締役
園田輝一
訴訟代理人弁護士
小松陽一郎
同
池下利男
同
村田秀人
同弁理士
野本陽一
同
福迫眞一
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第1 請求
特許庁が平成7年審判第11333号事件について平成10年3月30日にした審決を取り消す。
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、意匠に係る物品を「滑車」とし、その形態を別紙審決書写し(以下「審決書」という。)別紙第一のとおりとする登録第899403号意匠(昭和60年5月8日出願、平成6年3月14日登録。以下「本件登録意匠」という。)の意匠権者である。
被告は、平成7年5月25日、本件登録意匠の登録を無効とすることにつき審判を請求した。
特許庁は、同請求を同年審判第11333号事件として審理した結果、平成10年3月30日、本件登録意匠の登録を無効とする旨の審決をし、その謄本は、同年4月16日原告に送達された。
2 審決の理由
審決の理由は、別紙審決書に記載のとおりであり、審決は、本件登録意匠(審決書別紙第一。本訴における甲第2号証。以下、本訴における書証番号で表示する。)は、特開昭58-20340号公開特許公報記載の意匠(審決書別紙第二。甲第6号証。以下「甲第6号意匠」という。)に類似する意匠であって、意匠法3条1項3号に該当し、その章匠登録を無効とすべきであると判断した。
第3 審決の取消事由
1 審決の認否
(1) 審決の理由1(請求人の申立及び理由。審決書2頁3行ないし10頁12行)、及び2(被請求人の答弁。審決書10頁14行ないし16頁15行)は認める。
(2) 同3(当審(審決)の判断)中、
<1> (1)(本件登録意匠。審決書16頁18行ないし18頁2行)は認める。
<2> (2)(甲第6号意匠。審決書18頁4行ないし19頁13行)のうち、甲第6号意匠が「断面図によって表されたものであって」(審決書18頁12行)、「ボス部、ディスク部、リム部の順に一体に形成して表したものであって」(同18頁16行、17行)、「その中央に二本の細線を同心円状に表し」(同19頁4行、5行)、「二本の細線は、その間隔が極狭い幅の二重円状とし」(同19頁9行、10行)、「二重円の部位を、断面視極僅かにディスク面部から突出する態様としたものである」(同19頁12行、13行)ことは争い、その余は認める。
<3> (3)(本件登録意匠と甲第6号意匠との比較検討。審決書19頁15行ないし24頁12行)のうち、意匠に係る物品の一致(同19頁15行ないし18行)は認める。
<4> 形態についての共通点の認定(同19頁末行ないし20頁14行)のうち、両意匠とも、「ボス部、ディスク部、リム部の順に一体に形成して表したものであって」(同20頁1行ないし3行)、「二本の細線を同心円状に表し」(同20頁8行)、「二本の細線は、その間隔が極狭い幅の二重円状とし」(同20頁12行、13行)ている点で共通することは争い、その余は認める。
相違点の認定(同20頁15行ないし21頁11行)のうち、甲第6号意匠は、「ディスク部の中央として、その表面を僅かに突出する態様に表している点」(同20頁18行、19行)で本件登録意匠と相違することは争い、その余は認める。
<5> 両意匠の類否の判断中、相違点<1>についての認定、判断(審決書21頁13行ないし23頁9行)のうち、「甲第6号意匠に表されるディスク部の二重円状部については」(同21頁14行、15行)、「被請求人が主張するところの「接合面の外面を部分的な溶接を施して接合」とする特段の説明がその詳細な説明(昭和58年特許公開第20340号)になされていない以上、図に不明瞭な点があるとしても、甲第6号意匠は、ディスク部の接合部位でディスクを溶接して、同心二重円の細幅で僅かに突出する態様に表していると見ることに不合理な点はないから、被請求人のこの点の主張は、採用することができない」(同22頁2行ないし10行)こと、両意匠の相違点は、「同心二重円の位置及び表面が平坦か僅かに突出する態様に表しているかの点にあると見るほかない」(同22頁15行ないし17行)こと、及び「両意匠が共通するところの、二重円状部が、ディスク面部の円形孔の内方に位置して二本の細線で極狭い幅の同心二重円状を表している態様の中にあっては、ディスク面部の径の小さい内側半分の領域における部分的な部位の相違にすぎないから、その相違は、細部の相違というほかなく、表面の相違については、何れの態様も極普通に見られるところであって、評価するまでもない微細な相違である」(同23頁1行ないし9行)ことは争い、その余は認める。
<6> 相違点<2>についての認定、判断(同23頁9行ないし14行)は認める。
その余の相違点についての認定、判断(同23頁15行、16行)は認める。
<7> 両意匠の類否についての判断、結論(同23頁17行ないし24頁12行)は争う。
(3) 同4(むすび。審決書24頁14行ないし19行)は争う。
2 取消事由
審決は、甲第6号意匠の認定を誤ったため、本件登録意匠と甲第6号意匠との類否の判断を誤ったものであるから、違法なものとして取り消されるべきである。
(1) 甲第6号意匠の認定の誤り
<1> 審決は、甲第6号意匠は、「ボス部、ディスク部、リム部の順に一体に形成して表したものであって」(審決書18頁16行、17行)と認定するが、誤りである。
甲第6号証第4図(審決書別紙第二第4図参照)に記載された完成品は、同第3図(審決書別紙第二第3図参照)に表したシープ部品素材(外部材)と、中央部に回転軸取付用のボスを有する内部材との2素材を摩擦溶接したものである。
<2> 審決は、「その中央に二本の細線を同心円状に表し」(審決書19頁4行、5行)、「二本の線は、その間隔が極狭い幅の二重円状とし」(同19頁9行、10行)、「二重円の部位を、断面視極僅かにディスク面部から突出する態様としたものである」(同19頁12行、13行)、「被請求人が主張するところの「接合面の外面を部分的な溶接を施して接合」とする特段の説明がその詳細な説明(昭和58年特許公開第20340号)になされていない以上、図に不明瞭な点があるとしても、甲第6号意匠は、ディスク部の接合部位でディスクを溶接して、同心二重円の細幅で僅かに突出する熊様に表していると見ることに不合理な点はないから、被請求人のこの点の主張は、採用することができない」(同22頁2行ないし10行)と認定するが、誤りである。
(a) 甲第6号証第4図に記載された完成品は、2つの素材を摩擦溶接して製造したものであり、2本の細線は存在しない。甲第6号証第4図に少しふくれた部分が黒く見えるが、これは摩擦溶接時に表面に浸出したバリであり、製品化する最終的な仕上げ時には研削除去されるものである。
被告は、甲第6号証には摩擦溶接をうかがわせる記載はない旨主張するが、甲第6号証3頁左下欄2行の「溶接」は、「アーク溶接」だけでなく「摩擦溶接」も含む上位概念の技術用語である。甲第6号証は、第3図に図示されているディスク伝導部品素材の製造に係る方法及び装置の発明であるから、第4図に示した滑車の製造技術まで詳細に開示する必要はないものである。
(b) 甲第6号証第4図の黒くふくれた部分が連続して存在するのであれば、断面図である同図にはディスク面と平行な線が描かれていなければならないところ、同図にはそのような線は描かれていない。
また、審決が想定している別の溶接材を外方から連続して付着させたものは、ねじれ応力の作用でひび割れや剥離現象を生じ、実用品とならないことは、滑車の設計上の常識である。
(c) 仮に、甲第6号証第4図に別の溶接材による僅かな突出部分が認められるとしても、その突出部分は最終的な仕上げ時には研削除去されるものである。
さらに、上記別の溶接材による溶接部分が2本の線として表れるためには、面と面が明瞭に角を形成して交わっていなければならないところ、甲第6号証第4図の断面は、円弧状に、すなわち徐々に面と面が移り変わっているものであり、2本の線として明瞭に現れるものではない。
(2) 類否判断の誤り
<1> 本件登録意匠及び甲第6号意匠のように、リム部凹溝中心線において、ボスとウエブを含むディスク面部の形態が同一又は対称に表れる滑車等においては、ディスク面部の形態が類否判断の要部となる。
そして、滑車等の意匠の類否判断においては、その類似の範囲は大変狭いものである。
<2> 本件登録意匠の実施品は、リムディスク部材とボス部材との接合部に一定幅寸法の開先取り加工を施し、その部分に別の溶接材を使用して完全溶込み溶接をして一体化するものであり、その部分に溶接材による一定幅の同心二重円模様が介在形成される。しかも、その幅は、安全上の点からして、小径(直径30cm)の滑車でも15mm程度はあり、大径の滑車では40mm程度も形成される。したがって、その同心二重円模様は、極めて顕著なものとなる(甲第12、第13号証参照)。
<3> そうすると、本件登録意匠と甲第6号意匠との共通点にもかかわらず、細線が2本か1本かの相違、すなわち、表面上に二重円が描かれているか、1本の円が描かれているかの相違、及び二重円ないし1本の円の描かれている部位の相違は全体としてかなり目立ち、それらの相違は、その他の相違と相まって両意匠を類似の範囲の外に引き離しているものである。
第4 審決の取消事由に対する認否及び反論
1 認否
審決の認定、判断は正当であり、原告主張の誤りはない。
2 反論
(1) 甲第6号意匠の認定の誤りについて
<1> 原告は、甲第6号意匠は外部材と内部材との2部材からなる旨主張するが、物品の形状としては、ボス部、ディスク部、リム部の順に一体に形成して表したものであることに相違はないから、この点の審決の認定に誤りはない。
<2>(a) 甲第6号証第4図において正面視で同心二重円となるためには、意匠法上の正確な断面図としては突出部と突出部を結ぶ線の存在が必要であるかもしれないが、甲第6号証は、発明を説明する公開特許公報であり、当業者であれば、発明全体の内容に照らしてその意匠としての全体形状を具体的に認識することができるものである。
そして、滑車として大きな荷重や衝撃に耐えるためには、ディスク部の一部のみの溶接では足りないことは明らかであり、甲第6号証第4図が完成品の断面図であることからすれば、当業者は、接合部のすべてが溶接されていると当然理解するものである。
(b) 甲第6号証の発明の詳細な説明の欄には、「第3図は斯くして成型されたシーブ素材部分であり、あと第4図に示す如く別体に製造された鉄板製のディスク40及び車軸ボス41と溶接することにより製品となすのである。」(3頁右上欄19行ないし左下欄2行)とのみ記載されており、特殊な溶接方法である摩擦溶接であることをうかがわせる記載はない。
(2) 類否判断の誤りについて
<1> 本件登録意匠におけるリム部の存在とその形状、ボス部の存在とその形状、並びに中間にあるディスク部の存在とその形状は、ワイヤーロープを掛けて引っ張るという滑車の機能からすると、ありふれたものである。そして、本件登録意匠と甲第6号意匠とは、ディスク面上の開孔の数を含め、その基本構成態様に有意な差異はない。
<2> さらに、本件登録意匠のディスク部に同心二重円が存在する一方で、甲第6号意匠にも同心二重円が存在する。
仮に、甲第6号意匠から同心二重円が認識できないとしても、少なくともその部位には1本の円の溶接跡を認識することができるものである。
<3> 意匠全体として本件登録意匠と甲第6号意匠とを対比すれば、同心二重円か1本の円かにかかわらず、本件登録意匠は、甲第6号意匠に類似するものと判断するほかはないものである。
理由
1 本件登録意匠について
審決の判断のうち、本件登録意匠の認定(審決書16頁18行ないし18頁2行)は、当事者間に争いがない。
2 甲第6号意匠について
(1) 審決の甲第6号意匠についての認定(審決書18頁4行ないし19頁13行)のうち、甲第6号意匠が「断面図によって表されたものであって」(審決書18頁12行)、「ボス部、ディスク部、リム部の順に一体に形成して表したものであって」(同18頁16行、17行)、「その中央に二本の細線を同心円状に表し」(同19頁4行、5行)、「二本の細線は、その間隔が極狭い幅の二重円状とし」(同19頁9行、10行)、「二重円の部位を、断面視極僅かにディスク面部から突出する態様としたものである」(同19頁12行、13行)ことを除く事実は、当事者間に争いがない。
(2) 甲第6号証によれば、甲第6号意匠は、ほぼ円板状体の中心から外周側に向かって、ボス部、ディスク部、リム部の順に一体に形成して表したものであることが認められる。甲第6号意匠の実施品が外部材と内部材の2部材から製造されることは、甲第6号意匠の外観形態についての上記認定を左右するものではない。
(3) 審決は、甲第6号意匠のディスク面の中央に2本の細線を同心円状に表し、2本の細線はその間隔が極狭い幅の二重円状とし、断面視極僅かにディスク面部から突出する態様となっていると認定するが、これを認めに足りる証拠はなく、甲第6号意匠のディスク面の中央には、一本の細線が同心円状に、突出することなく表されているものと認めざるを得ない。
<1> すなわち、甲第6号証によれば、その第4図(審決書別紙第二第4図参照)には、ディスク部のほぼ中央に左上から右下への斜線部分と右上から左下への斜線部分との境界部分に縦の境界線(左右2本)が引かれ、その上下(特に上部)に小さな黒くふくれた部分が図示されていることが認められる。
<2> 被告は、この小さな黒くふくれた部分は通常の溶接の跡である旨主張し、他方、原告は、この部分は摩擦溶接の跡であると主張しているところ、甲第6号証によれば、同号証の発明の詳細な説明の欄には、「第3図は斯くして成型されたシーブ素材部分であり、あと第4図に示す如く別体に製造された鉄板製のディスク40及び車軸ボス41と溶接することにより製品となすのである。」(3頁右上欄19行ないし左下欄2行)と記載されていることが認められる。
そして、甲第4号証の1によれば、溶接法の一種として摩擦溶接のあることが認められ、甲第4号証の2及び弁論の全趣旨によれば、摩擦溶接では接合面にバリが生じるが(甲第4号証の2の写真4及び5参照)、製品化の際にはこのバリは削り取られることが認められる。さらに、通常の溶接を溶接面全体にわたって施したのであれば、完成品の断面図(甲第6号証3頁左下欄16行)である第4図にはディスク面と平行な線が描かれていなければならないところ、甲第6号証第4図にはそのような線は描かれていないことが認められる。
<3> そうすると、甲第6号証第4図に図示された黒くふくれた部分は、通常の溶接の跡であり、別の溶接材が円周上に二重円を形成するように溶接されたものを表しているとまで認定することはできず、むしろ原告が主張するように摩擦溶接による接合面をあらわしているものとみることができる。したがって、甲第6号証第4図には、摩擦溶接されたものが図示されており、外観形態としては、ディスク面のほぼ中央部に1本の同心円状の線が突出することなく表されているものと認めざるを得ない。
3 共通点、相違点の認定について
(1) 審決の認定のうち、意匠に係る物品の一致(審決書19頁15行ないし18行)は、当事者間に争いがない。
(2)<1> 審決の形態についての共通点、相違点についての認定(審決書19頁末行ないし21頁11行)のうち、両意匠とも、「ボス部、ディスク部、リム部の順に一体に形成して表したものであって」(審決書20頁1行ないし3行)、「二本の細線を同心円状に表し」(同20頁8行)、「二本の細線は、その間隔が極狭い幅の二重円状とし」(同20頁12行、13行)ている点で共通すること、並びに、甲第6号意匠は、「ディスク部の中央として、その表面を僅かに突出する態様に表している点」(同20頁18行、19行)で本件登録意匠と相違することを除く事実は、当事者間に争いがない。
<2> 前記1、2に説示したところによれば、審決の共通点の認定のうち、両意匠は「ボス部、ディスク部、リム部の順に一体に形成して表したものであって」(審決書20頁1行ないし3行)との認定に誤りはない。
しかし、「二本の細線を同心円状に表し」(同20頁8行)、「二本の細線は、その間隔が極狭い幅の二重円状とし」(同20頁12行、13行)ている点で共通するとの認定は誤りである。
また、甲第6号意匠は、「ディスク部の中央として、その表面を僅かに突出する態様に表している点」(同20頁18行、19行)で本件登録意匠と相違するとの認定は誤りであり、両意匠はディスク部の表面に突出したものがあるか否かの点で相違はないものである。
4 類否の判断について
(1) 甲第9号証(米国特許第2、730、795公報)及び弁論の全趣旨によれば、本件登録意匠と甲第6号意匠とに共通する基本的構成態様(ディスク面上の二重円状の細線の有無及びその位置の点を除く。)は、ワイヤーロープを掛けて引っ張るという滑車としてはありふれた形態のものであることが認められる。
(2) 相違点<1>についての認定、判断については、前記に説示のとおり、本件登録意匠と甲第6号意匠には、<1>ディスク面上の細線が2本か1本かの相違、すなわち、表面上に二重円が描かれているか、1本の円が描かれているかの相違、及び<2>二重円ないし1本の円の描かれている部位がディスク部の中心寄りか、ディスク部の中央かの相違があるものである。
相違点<2>についての認定、判断(審決書23頁9行ないし14行)及びその余の相違点についての認定、判断(同23頁15行、16行)は、当事者間に争いがない。
(3) 前記のように、本件登録意匠と甲第6号意匠とに共通する二重円の有無等を除く基本的構成態様は、ワイヤーロープを掛けて引っ張るという滑車としてはありふれた形態のものであるところ、二重円の有無及びその位置の相違等を総合して考慮しても、それらの相違は、両意匠の共通する基本的構成態様から生じる共通感を凌駕するほどの顕著な印象を与えるものではなく、本件登録意匠は、甲第6号意匠に類似するものと認められる。
(4) 原告は、本件登録商標及び甲第6号意匠のように、リム部凹溝中心線においてディスク面部の形態が同一又は対称に表れる滑車等においては、ディスク面部の形態が類否判断の要部となる旨主張するが、一般にディスク面部の形態の差異をもって意匠の類否を判断すべきものと限定して解すべき根拠は認められず、また、本件においても、意匠の基本的構成態様の共通点及び相違点を含めて両意匠を全体的に比較して看た場合、ディスク面上の差異(細線が二重円か一重円かの差異及びその位置の差異)によって両意匠を類似の範囲外のものとすべき別異の美感を与えているとはいえないから、この点の原告の主張は採用することができない。
なお、原告は、甲第12、第13号証に基づき、本件登録意匠の実施品における2本の細線間の幅は、小径(直径30cm)の滑車でも15mm程度はあり、大径の滑車では40mm程度も形成されるため、その同心二重円は極めて顕著なものとなる旨主張する。しかしながら、直径30cmのもので幅が15mm(1.5cm)とは、細線間の幅が滑車の直径の20分の1であることを意味するが、甲第2号証(本件登録意匠の意匠公報)に記載された正面図を計測しても、2本の細線間の幅は滑車の直径の50分の1程度にすぎないし、しかも、2本の細線はボス部に近接して位置するため、本件登録意匠における同心二重円は原告が主張するほどに顕著なものと認めることはできない。
5 結論
以上によれば、本件登録意匠は意匠法3条1項3号に違反して登録されたものであり、その登録を無効とすべきであるとした審決の結論に誤りはない。
よって、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結の日 平成11年2月2日)
(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)
理由
1.請求人の申立及び理由
本件審判請求人は、「意匠登録第899403号(以下、「本件登録意匠」という。)の登録は、これを無効とする。」との審決を求めると申し立て、請求理由を要旨下記のように主張し、証拠方法として甲第1号乃至第33号証(甲第8号証は重複、及び枝番を含む)を提出した。
(1)無効事由
本件登録意匠は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された、<1>実開昭51-69270号公開実用新案公報記載の意匠(甲第4号証)、<2>特開昭55-164444号公開特許公報記載の意匠(甲第5号証)、<3>特開昭58-20340号公開特許公報記載の意匠(甲第6号証)に類似し、意匠法第3条第1項第3号に該当し、また、<4>本件登録意匠は、その出願前に周知であった意匠及び技術に基づいて容易に創作された意匠であり、意匠法第3条第2項の規定に該当するから、その登録は意匠法第48条の規定により無効とされるべきものである。
(2)無効原因
1)本件登録意匠について
本件登録意匠は滑車に係り、その基本的形態が「外周側にロープを懸けるリム部を設けたリムディスクとボスとを、それぞれ別体成形品となし、かつ両者をボスの中央外周部で溶接一体化した」点にある。その具体的形態はつぎのとおりである。
<1>リムディスクはウエブ部とリム部からなり、ウエブ部は平板環状で、リム部はウエブ部の外周側に環状に設けられ、略U字形を呈するもので、他方ボスは円筒部の軸方向中央に径方向外方へ向けて環状の凸状部を設けており、リムディスクのウエブ部とボスの凸状部とを環状に溶接し、溶接部を感知させる線を描出している。<2>ウエブ部に釣り孔が2箇等配状に設けられている。<3>全体構成において左側面図中、溝巾と円板径の比率は1:8である。
2)甲第6号証の意匠について
昭和58年2月5日公開された特開昭58-20340号公開特許公報記載の意匠(甲第6号証)は、シーブの形状に係り「外周側にロープを懸けるリム部を設けたリムディスクとボスとを、それぞれ別体成形品となし、かつ両者をボスの中央外周部で溶接一体化した」滑車の構成に係り、その具体的形態を次のとおりとするものである。なおここにシーブ(sheave)は「円周にロープを懸けるみぞのある滑車」の意であり、本件登録意匠に係る物品と同一のものであることに容疑の余地はない。
<1>リムディスクはウエブ部とリム部からなり、ウエブ部は平板環状で、リム部はウエブ部の外周側に環状に設けられ、略U字形を呈するもので、他方ボスは円筒部の軸方向中央に径方向に向けて環状の凸状部を設けており、リムディスクのウエブ部とボスの凸状部とを環状に溶接している。<2>ウエブ部に釣り孔が設けられている。<3>第4図に示す滑車の全体構成は溝巾と円板径の比率は1:6.5である。
なお第4図では、リム部外端部を示す外周線が欠落しているが、この点は明白な欠落であって当業技術者ならびに取引者の極めて容易に想到し得るものである。
3)本件登録意匠と甲第6号証の意匠の対比
本件登録意匠と甲第6号証に表された意匠(以下、甲第6号意匠という。)は、「リムディスクはウエブ部とリム部からなり、ウエブ部は平板環状で、リム部はウエブ部の外周側に環状に設けられ、略U字形を呈するもので、他方ボスは円筒部の軸方向中央に径方向外方へ向けて環状の凸状部を設けており、リムディスクのウエブ部とボスの凸状部とを環状に溶接した」点を共通にしている。
甲第6号意匠のものは第4図に示すように本件登録意匠と同じく、リム部とウエブ部は一体的であってウエブ部とボスの凸状部のみを溶接している。この溶接位置について本件登録意匠は若干異なるが、意匠構成上極めて微差であってこの点に意匠の創作性があるとは到底言い得ない。なお甲第6号意匠においても本件登録意匠と同じくウエブ部とボス凸状部との溶接により溶接部を感知させる2本の線が描出されるのは明らかである。
本件登録意匠は、ウエブ部に釣り孔が2箇等配状に設けられているが、甲第6号意匠における釣り孔の数は明確に描出されていない。
全体構成において本件登録意匠はその左側面図中、溝幅と円板径の比率が1:8であるのに対し、甲第6号意匠は同1:6.5であってそれ程異ならず美観上の相違も微差であると言わざるを得ない。
以上のとおり本件登録意匠は、その具体的態様において甲第6号意匠と主要な意匠的構成を同一にするものであり、形状における上記の相違点は意匠の創作性を強く具有するものでなく意匠的美感の相違は極めて微差であって要部の相違とは到底言い得ないものであるから、本件登録意匠は滑車の意匠として甲第6号意匠と明らかに類似するものである。
4)被請求人の答弁に対する弁駁
被請求人は意匠登録第899403号意匠の特徴につき、a.リムディスクとボスとが夫々れ別体の成形品であること、b.ボスの外周中央部に於いて、外周縁部と少し離れた高さ位置に突出するものとなした凸状部が形成してあること、c.リムディスクのディスクはその肉厚寸法が、上記ボスの凸状部の肉厚寸法と同一寸法に形成してあること、d.リムディスクのディスク下端縁とボスの凸状部の外周端縁とを完全溶込み溶接させて、両者間に一定巾寸法の同心二重輪線が形成されるものとなること、にあると認定する。
しかしながら、a.については、意匠は完成された物品の外観に於いて判断されるものであるから、製造工程において別体であったとしても、完成時において分離不可能に(溶接によって)結合されたものを、別体と称することは出来ない。製造工程(方法)を問題とできるのは特許法においてであり、意匠法の予定するものではない。
すなわち、リムディスクとボスとは、意匠としては「一体不可分に」構成されている。次に、b.については、意匠に係る物品の「製造工程」においてのみ存在し、完成された意匠のどこにも存在しない形態を、該意匠の特徴点とすることはできない。従って、本件登録意匠にはbは存在しない。c.についても同様であり、滑車として完成されている本件登録意匠においては「存在していない形状」である「凸状部」と、ディスクの肉厚を対比することは出来ない。従って上記a乃至cは、本件登録意匠の「意匠としての」特徴とはなり得ない。d.については、「一定巾寸法の同心二重輪線が形成されている」という記述自体は、一応、意匠としての外形に関する記述と認めることが出来る。ただし、それは「完全溶け込み溶接」によるものとのことであるので、該部分が面一で平滑面である以上、意匠としては、該部分に、溶接部と他の部位とを区別し得るような「傷跡」ないしは「痕跡」若しくは「模様」が生じているとの評価しかなし得ないものである。
しかも、周知のように、「溶接」とは、同種の金属を同種の金属で溶融接合する技術であり、被請求人の主張するように該部位が「溶接」によって接合されているのであれば、そこに現れる「模様」は、極めて僅かな色調の変化に由来して生じるに過ぎない。「僅かな色調の変化に由来して生じる差異」は、「視覚的に目立たない」。意匠の類否判断は、「視覚」を通じた美感の差異によって判断されるものであるから、「視覚的に目立たない」ものは、評価のしようがないのである。
以上のとおり、被請求人の主張する本件登録意匠の特徴点なるものは、その全てが、意匠と無関係か又は評価しようがない程微細な点についてのものであり、到底、本件登録意匠の特徴点足り得ない。
請求人の提出した甲第6号証に関し、被請求人は自己の出願に係る滑車であることを認めた上で、該出願において示された意匠と本件登録意匠は溶接部の態様が異なるとのみ述べているのであり、その余の点がほぼ同一であることを、結果として傍証する。本件登録意匠は、その出願前から被請求人が実施してきた意匠と(仮に、溶接部の態様が多少相違するとしても、その余の点が)一致することにより類似する。
本件登録意匠の属する分野は、形態決定の規範となるような工業規格が存在し、技術常識の蓄積が進んだ物品分野のものであり、その形状を予測出来ないものではない。
2.被請求人の答弁
被請求人は、「本件審判請求は、成り立たない。」との審決を求めると答弁し、その要旨下記のように主張し、証拠方法として、乙第1号乃至第17号証を提出した。
(1)本件登録意匠について
本件登録意匠は、登録意匠公報に示す通りであり、この滑車の特徴を説明すると、次の通りである。
a.リムディスクとボスとが夫々れ別体の成形品であること、b.ボスの外周中央部に於いて、外周縁部と少し離れた高さ位置に突出するものとなした凸状部が形成してあること、c.リムディスクのディスクはその肉厚寸法が、上記ボスの凸状部の肉厚寸法と同一寸法に形成してあること、d.リムディスクのディスク下端縁とボスの凸状部の外周端縁とを完全溶込み溶接させて、両者間に一定巾寸法の同心二重輪線が形成されるものとなること、
(2)甲第6号証の意匠について
甲第6号意匠(特開昭58-20340号)は被請求人の出願に係るものであるから、該図面で示される滑車輪の構造も良く熟知している所であり、第4図に於いて車軸ボス41の中央外周部における凸状部の突出高さは滑車輪の全高(直径)の半分以上もU字状のリム側へ近寄るものとなされる高い位置であって、本件登録意匠のものとは顕著に相違しており、また両者の接合は単に接合面の外面を部分的な溶接を施して接合するのみであり、従って本件登録意匠に見られる如き完全溶込み溶接されるものを示しているものではないことから、前述した一定巾寸法をなした同心二重輪線がボスの外周縁部から少し離れた高さの上方位置に適確に形成されるものとならないのであって、全く顕著な相違のあるものである。
単なる一部断面で本件登録意匠の要旨が公然知られた意匠であるなどと到底言えるものとはならない。
3.まとめ
請求人の提出した挙証資料の全てには、特に次の点、即ちボスとリムディスクを別体成形品として一体化させるさいに、ボスの外周中央部の少し離れた高さ位置に突出するものとなした凸状部が形成してあって、リムディスクの下端縁と上記ボスの凸状部との間に完全溶込み溶接による一定寸法の同心二重輪線が形成されるものとなる本件登録意匠の特徴が何ら顕出されるものとならないのであり、従って何ら意匠法第3条第1項第1号の規定に該当するものではない。
なお、本件登録意匠の上記した特徴、即ちボスの外周縁中央部の少し離れた高さ位置に完全溶込み溶接によって形成された一定寸法の同心二重線が顕出されるものとなる特徴は極めて顕著なもので且つ同時に従来品には見られない独特な機能美を呈するものであります。
本件滑車の登録意匠を説明すると、リムディスクとボスとを夫々れ別体に製作し、斯かる別体成型品の両者を一体化して滑車と言う物品を工業的に生産するにさいし、ボスの外周中央部に一定高さの凸状部を形成したものとなし、該凸状部の箇所で両者を左右側方から一定巾間に溶接材を使用して完全溶込み溶接で一体化させて産出(製品化)するものであり、そのさいに独特に形成されるものとなる模様の意匠(完全溶込み溶接が一定寸巾の二重輪線となるリング模様)なのであり、該物品意匠が従来品(滑車)には全く見ることのできなかった新規性を備え、且つ容易でない創作性があるとして本件は上級審の審判に於いて審決されたことにより登録になっているものである。
滑車の製造は一般的には同一金属材料で鋳造成型品となされるのであるが、近年では生産性と経済性などの点を考慮してこれを夫々れ別体の成型品となしたものを合体化して製造することが行われているのであり、リムディスクとボスとを別体の成型品とすることは回転軸側へ嵌着させるボス部と、ロープ掛けされるリムディスク部とを強度的に異なる材料使用とするメリットがあるのであり、具体的に説明するとボスの材質はS35C、リムディスクの材質はS25Cの如く同一のもとはなさないのであり、またこれらを一体化する溶接材は上記材質に対しカーボンを減らしてチタン、マンガンなどの新たな素材を加えたものを使用するのであり、このように三者を同一素材でないものとすることは、本件登録意匠公報のX-X、Y-Y断面図の相当箇所が夫々れ別異のハッチングで示されていることから極めて明らかに理解されるものとなっているのである。また、完全溶込み溶接は点溶接や摩擦溶接などと異なり左右の両側方から溶接材が内部で一体的に溶融結合される状態となるため、該溶接材により左右の両側面に一定の巾間隔による模様が明確に形成されるものとなるのであり、これを数値的に言えば該巾間隔は例え径の小さな滑車でも少なくとも10mm程度となるのであり、一般的には10mm~20mmの巾となる寸法である。
一般的に言って「溶接」とは物体と物体とを接触状態に当接させて、その外周側面を部分的に点状溶接したり、或は全面溶接(隅肉溶接)するものである。近年では摩擦溶接と言う溶接手段があり、該「摩擦溶接」とは物体と物体との互いに接合したい箇所を選んで当接状態に置き、一方を固定し他方を高速回転させる(或いは両者を逆方向に回転させる)ことにより相互の当接面を融化接着させるのであり、このさい双方が同質材である場合の一体化接合面は何ら線として表されるものとならないのであるが、若し異質材の場合は両材質の境界面が1本の線となって表されるものである。
甲第6号証のものはボスとリムの接合面は単に材質の相違による境界線が見られるだけのものであり、また左右側面に少し付着した黒塗り部分の溶接材は決して内部には入るものとなっていないことから部分的な点状溶接を示すに過ぎない。従って、これが完全溶込み溶接でないことは極めて明々白々である。請求人の該証により新規性を喪失しているなどと言うようなことには決してならないのである。
3.当審の判断
(1)本件登録意匠
本件登録意匠は、昭和60年5月8日に意匠登録出願(意願昭60-18999号)をし、平成6年3月14日に意匠権の設定の登録がされたものであり、当該意匠登録原簿及び出願書面の記載によれば、意匠に係る物品を「滑車」とし、その形態を、別紙第一に示すとおりとしたものである。
すなわち、略円板状体の中心から外周側に向かって、ボス部、ディスク部、リム部の順に一体に形成して表したものであって、全体の基本的構成態様を、ボス部とディスク部及びリム部は、略一定の肉厚に形成して左右対称に表し、ボス部は、中央部を大きく開口して、リム部の幅の略1.5倍の長さの短円筒状体に表し、その外側のディスク部は、平板なドーナツ状板体に表して、ディスク面部に円形孔を二つ設け、その中心寄りに二本の細線を同心円状に表し、その外側のリム部は、断面視略「U」の字状の環状体に表した態様とし、各部の具体的態様を、円形孔は、ディスク面部の幅の略1/2の径にして、ディスク面部の中央に中心と対称に設け、二本の細線は、その間隔が極狭い幅の二重円状とし、リム部の外周縁部は、中央を凹溝に両側を平坦状に形成した態様としたものである。
(2)甲第6号意匠
請求人及び被請求人に争いの無い、昭和58年2月5日に日本国特許庁発行の公開特許公報に掲載された昭和58年特許公開第20340号(発明の名称「伝導部品素材の製造方法及び装置」の第3図と第4図、及び、同公報の記載によって表されたシーブと称する意匠であって、その形態を別紙第二に示すとおりとしたものである。
そこで、甲第6号意匠について検討すると、同意匠は、断面図によって表されたものであって、全体形状を正確に把握することができるとは言えないが、その形態を前記の図面及び同公報の記載から推察すると、略円板状体の中心から外周側に向かって、ボス部、ディスク部、リム部の順に一体に形成して表したものであって、全体の基本的構成態様を、ボス部とディスク部及びリム部は、略一定の肉厚に形成して左右対称に表し、ボス部は、中央部を大きく開口して、リム部の幅と略同長の長さの短円筒状体に表し、その外側のディスク部は、平板なドーナツ状板体に表して、ディスク面部に円形孔を二つ設け、その中央に二本の細線を同心円状に表し、その外側のリム部は、断面視略「U」の字状の環状体に表した態様とし、各部の具体的態様を、円形孔は、ディスク面部の厚さと略同じ径にして、ディスク面部のリム部寄りに中心と対称に設け、二本の細線は、その間隔が極狭い幅の二重円状とし、リム部の外周縁部は、中央を凹溝に両側を平坦状に形成した態様とし、二重円の部位を、断面視極僅かにディスク面部から突出する態様としたものである。
(3)本件登録意匠と甲第6号意匠との比較検討
まず、両意匠の意匠に係る物品についてみると、両意匠は、円周にロープをかけ、回転させてものを動かす為に使用される部品とするものであり、意匠に係る物品が一致している。
次に、形態については、両意匠とも、略円板状体の中心から外周側に向かって、ボス部、ディスク部、リム部の順に一体に形成して表したものであって、全体の基本的構成態様を、ボス部とディスク部及びリム部は、略一定の肉厚に形成して左右対称に表し、ボス部は、中央部を大きく開口して、短円筒状体に表し、その外側のディスク部は、平板なドーナツ状板体に表して、ディスク面部に円形孔を二つ設け、二本の細線を同心円状に表し、その外側のリム部は、断面視略「U」の字状の環状体に表した態様とし、各部の具体的態様を、円形孔は、ディスク面部の中心に対して対称に設け、二本の細線は、その間隔が極狭い幅の二重円状とし、リム部の外周縁部は、中央を凹溝に両側を平坦状に形成している点に共通する。
他方、相違点としては、<1>二重円状部を、本件登録意匠は、ディスク部の中心(ボス部側)寄りにして、その表面を平坦に表しているのに対して、甲号意匠は、ディスク部の中央として、その表面を僅かに突出する態様に表している点、<2>ボス部の長さを、本件登録意匠は、リム幅の略1.5倍に表しているのに対して、甲第6号意匠は、リム幅と略同長の長さに表している点に相違するところがある。そして、仔細にみると、リム部外周側面部の両側を、本件登録意匠は、平滑面状に形成しているのに対して、甲号意匠は、凸曲面状に形成している点、ディスク面部の開孔の径を、本件登録意匠は、ディスク面部幅の略1/2に表しているのに対して、甲号意匠は、ディスク面部の厚さと略同じに表している点等に相違するところがある。
そこで、これらの共通点及び相違点を総合して、両意匠を意匠全体として考察すると、まず、相違点<1>については、まず、甲第6号意匠に表されているディスク部の二重円状部については、この種物品の使用の目的からみると、大きな荷重や衝撃あるいは繰り返し荷重がかかるものであることが普通であり、当該意匠に見られるように、各部材を溶接して一体に形成するものにあっては、接合部の全てが溶接されていると解されるのが一般的であり、被請求人が主張するところの「接合面の外面を部分的な溶接を施して接合」とする特段の説明がその詳細な説明(昭和58年特許公開第20340号)になされていない以上、図に不明瞭な点があるとしても、甲第6号意匠は、ディスク部の接合部位でディスクを溶接して、同心二重円の細幅で僅かに突出する態様に表していると見ることに不合理な点はないから、被請求人のこの点の主張は、採用することができない。また、溶接の態様であるが、被請求人は「両意匠の溶接方法が相違する」旨主張しているが、溶接の方法の相違によって強度等の性能的な効果に差が生じるとしても、視覚に訴える外観形態として表されているところの両意匠の相違点は、結局、同心二重円の位置及び表面が平坦か僅かに突出する態様に表しているかの点にあると見るほかないのである。そうとすると、位置の相違については、ディスク面部の中心から内周端の間での相違であって、形態全体から観ると、両意匠が共通するところの、二重円状部が、ディスク面部の円形孔の内方に位置して二本の細線で極狭い幅の同心二重円状を表している態様の中にあっては、ディスク面部の径の小さい内側半分の領域における部分的な部位の相違にすぎないから、その相違は、細部の相違というほかなく、表面の相違については、何れの態様も極普通に見られるところであって、評価するまでもない微細な相違である。<2>の、ボス部の長さの相違であるが、本件登録意匠の出願前より、この種物品の属する分野において、使用される目的により適宜の長さとすることが普通になされているところであって、本件登録意匠にのみ見られる態様ともいえず、その相違は微細な相違である。その余の相違点は、取り上げて評価するまでもない微細な相違である。
ところで、両意匠の共通するところの、外周側にリム部を、その内側にディスク部を、そして中央にボス部を一体にして表した略円板状とすることは、この種物品の属する分野においては、基本的な要素であり、極めてありふれた態様であって、評価するまでもないところである。
そして、前記した相違点を総合して対比しても、両意匠が共通する態様のディスク面部を円形孔の内方に位置して二本の細線で極狭い幅の同心二重円状を表して、全体を一体にしているところの共通感を凌駕するものでなく、本件登録意匠は、甲第6号意匠に類似するものと判断するほかない。
従って、本件登録意匠は、前記のとおり、その出願前に頒布された刊行物に記載された甲第6号意匠に類似する意匠である。
(4)むすび
以上のとおりであるから、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項3号に該当するものであり、その余について審案するまでもなく、その意匠登録は、同法同条同項の規定に違反してなされたものであるので、本件登録意匠を無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
別紙第一 本件登録意匠
意匠に係る物品 滑車
説明 背面図は正面図と、右側面図は左側面図と、底面図は平面図と同一にあらわれる。
<省略>
別紙第二 甲第6号意匠
<省略>